純一枚手焼きが特別な理由
「煎餅」と聞くと、どうしても固いお煎餅を想像しがちですが、
遠江屋の純一枚手焼きの湯せんぺいは、口に入れた途端、
舌先で溶けていってしまう軽やかさ。
噛み続ける必要がないほど、一口一口がソフトで、
ご高齢のお客様からも「歯がいらないわね」と喜ばれています。
それは、一丁型の金型で、一枚一枚、生地の焼け具合を確認しながら焼く製法ならでは。
その究極の歯ざわりの秘密を探ります。
唯一無二の9丁の金型
純一枚手焼きの主軸になるのは一丁3キロある9丁の金型。現在使用している金型は二代目で、30年ほど前から使い続けています。現在、金型の特殊な部品を作る職人がいなくなってしまったことから、同じ型の製造は今後不可能とされる貴重な型です。
9丁の型にはそれぞれ癖があり、それはまるで、個性をもった人間のようだと職人は言います。同じように焼いていても、温まりにくい金型もあれば、湯せんぺいが張り付きやすい金型もある。
職人は一日10時間、じっと釜の前に座りながら、日々いろんな変化をみせるそれぞれの金型と対峙し、みな一定の焼き上がりに仕上がるよう微調整を加えていきます。
徹底した温度管理
標高700メートルにある雲仙温泉街の気候は、突然の雨や濃霧など、一日の中でも、また年間を通しても、変動が大きく、金型たちはその外気の影響を直に受けます。金型の温度を一定に保てないと、美しい焼き色がつかなかったり、ふんわり軽い歯ざわりにならなかったりと、上質な湯せんぺいは焼き上がりません。
職人は日々、その天候や気温を熟知し、焼いている金型を釜から上げるタイミングを独自で変えたり、火力を微調整したり、窓の開閉で室温を調節したりします。それはまさに職人の勘。職人自らが適切に調整できるようになり、年間を通して安定した品質の湯せんぺいが焼けるようになるには長い年月がかかります。
その調整は微細なものであるかもしれません。しかし職人はそこに勘を研ぎ澄まし、繊細に行っています。お写真撮影や、手焼き体験の際には、窓の開閉、道具の取り扱いは慎重にされますよう、心よりお願いいたします。